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小ネタ:なぜ「InDesign:ノンブル(ページ番号)の付け方」という記事にいつまでもアクセスがあるのか

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大昔に自分たちで書いていたブログに、「InDesign:ノンブル(ページ番号)の付け方 | 今日の学びノート」という記事がある。ブログ自体が雑多なメモのようなもので、この記事も、情報と呼べるものはAdobe InDesignのごくごく基本的な操作ひとつだけ。しかし公開した2008年から現在までに、Google Analyticsの標準設定ベースで、なんと11万回以上ものPV。その上、現在でも平日には数十回ずつ見られているし、なによりGoogle検索でAdobe公式のヘルプと、入門用のガイド記事の、その次に表示されているのだ。

以下がその内容で、たったこれだけしかない。


InDesignのノンブルの付け方 by kogu CC BY 4.0

InDesignさんに、現在のページ番号に応じたページ番号を、常に自動でふってもらう方法。

マスターにテキストボックスを作成。テキストボックスにカーソルをいれたまま、メニューから「書式」→「特殊文字の挿入」→「マーカー」→「現在のページ番号」を選択すると、テキストボックスにマスター名が入ります。このテキストボックスに書式やデザインを適用し、ノンブルを置きたい位置に配置。これで、同じマスターがあたっているページには、現在のページ番号に応じた番号を、ノンブルとしてふることができました。

5秒で全ページにノンブルがふれちゃうし、ページが削除されたり追加されたりしても自動で変更してくれるし、1ページだけ位置が間違って動く事はないし、番号が飛んでしまう事もないし…賢いね。でも「ページレイアウトソフト」と呼ばれるもの(Quark・Word・Excelなど)には大抵付いているらしい。よく考えたら、当然手でふるなんて恐ろしいから、必要な機能だ。

今まで私にとってのレイアウトソフトはIllustlatorだったから、それには全く無かった新しい考え方、構造に触れる事が出来て楽しい。


これはおそらく、InDesignというアプリケーションの特殊さから来るものだろう。

Adobe InDesignは完全に業務用のアプリケーションである。PhotoshopやIllustratorのように、趣味で絵を描いて…などという目的で使えるものではない。ページという概念を基底に持つ、プリントや電子書籍のためのアプリケーションだ。多くの人間は学生時代などに触れる機会も少なく、仕事や研修としてはじめて突き付けられる。

日本は特にユーザーが多いにも関わらず、InDesignの情報はWebに少ない。特に、あまりに基本的な操作や概念の解説は、ほとんど無い。これがPhotoshopやIllustratorなら、初学者にやさしい解説が多すぎて迷うほどだ。はじめてInDesignに触れる人々は、WebにPhotoshopやIllustratorのような解説を期待して、とても基本的な”InDesign ノンブル”というキーワードで検索する。その結果、Adobeのヘルプの次に表示される、あのページに辿り着くのだろう。

“ノンブル”という語は重要だ。InDesign上では、ノンブルがノンブルと呼ばれることはない。「ページ番号」が機能としての名称であり、ノンブルという語は日本の印刷業界の言葉である。しかし初めてInDesignに触れるような人々は、印刷業界か、それをバックグラウンドに持つだろうから、自然な”ノンブル”という語を選ぶ。Adobeの公式ヘルプページは、当然InDesignとの関連性が非常に高く評価されており、またGoogleのエンジンは”ノンブル”と”ページ番号”のsynsetを理解するだろうから、それらがまず検索結果に挙げられる。入門ガイドは日本の印刷業界向けに書かれているため、ノンブルという語を使っている。しかしガイドは「ページに関する機能」という大きな解説であり、ノンブルに特化していない。ノンブルという語を使い、ただその設定の仕方を解説した、しかも古くからある記事が他に無いため、3番目にこの記事が挙げらているのだと考えられる。

検索エンジンに最適化する方のSEOにはあまり近寄りたくないが、こちらの方は結果として、検索という需要への意味のある最適化となっている。ノンブルという半ば業界用語を、業界用語と知らずに、あるいは、アプリケーション用語への置換えを知らずに検索する多くの人が、公開から8年も経った記事のアクセス数として見えている。今は他の候補も色々あるが、もしも当時このページが無ければ、多くの人が”ノンブル”をInDesignの中に探し求めて、数分とは言え無駄にしていたのかも知れない。この記事を書いたメンバーは、まさにその無駄にした一人だったからこそ、ノンブルという言葉を意識せず、自然と他者が望む記事を書けたのだろう。

この継続する地道なアクセスは、InDesignが地道に築いてきた立場の証明でもある。しぼむ印刷業界においてではあるが、EPUB対応などがあるにせよ、結局InDesign以外の選択肢が無いという状況を作り上げたのだ。実際、それなりの組版やページ物を作るのに、InDesignが無いとなるとぞっとする。技術書や論文ならTeXで済むかもしれない。原稿はMarkdownで済むかもしれない。しかし日本語の印刷物制作では、やはりInDesignが最も強く、最も広いのだ。だからこそ、今日この日でも、ノンブルの入れ方という基本を調べようとするユーザーがいる。

これらの状況から、検索の需要と供給にある、小さいけれど意味のあるギャップを考える。印刷業界という旧態だらけの業界と、旧態からプリンティングの未来までをカバーせんとするInDesignの間に、ノンブルとページ番号という用語のギャップがある。複雑で大きな業務用のアプリケーションであるInDesignと、日々新しい要求にひとつひとつ学びながら進もうとするユーザーの間にギャップがある。

印刷業界には、業界用語どころか、小規模のインハウスだけで通じる用語が山ほどある。そんな家内制の延長のような中小企業が支えた業界でありながら、求める印刷物に対して複雑すぎるかもしれないアプリケーションを使わなければならない状況がある。印刷業界に限らず、そのようなギャップを抱える業界はもっと多いのではないだろうか。であれば、そのギャップを埋め、検索の需要と供給をつなぐコンテンツこそ、健全な検索への最適化のひとつではないだろうか。

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